🎹第3章:写真が届いた日

十二月の風が、ようやく冬らしい冷たさを帯び始めたころだった。
「今年はまだ届かないなあ」
毎年クリスマス前に生徒たちへ手渡すピアノ発表会の記念写真。その封筒が今年に限ってなかなか姿を見せず、私はそわそわとポストを覗く日が続いていた。

もしかしたら、どこかで迷子になっているのでは。
そんな不安が胸の奥で小さく鳴り始めた数日前、思い切って写真屋さんに電話をした。受話器の向こうから聞こえてきたのは、少し申し訳なさそうな声だった。

「今年は九月ごろからずっと込み合っていて……でも、十二月二十五日には発送できますよ」

その言葉に、胸の中の霧がふっと晴れた。
そして今日、ようやく届いた封筒を開けると、あの日の空気がそのまま閉じ込められたような一枚が現れた。三歳の小さな手から、シニアの穏やかな笑顔まで。年齢も歩んできた道も違う生徒たちが、ひとつの輪になって私を囲んでいる。

写真の端に、ひとりだけいない顔がある。
小学六年生の男の子。あの日、彼はバスケットの大切な試合で黒部へ向かっていた。集合写真には間に合わなかったけれど、本番には息を切らして駆けつけ、舞台の上で誰よりもエネルギッシュな音を響かせてくれた。

初めて舞台に立った大人の生徒さんは、思いがけない緊張に自分が一番驚いたという。
「仕事ではこんなに緊張しないのに」
そうこぼしながらも、次に挑戦したい曲の話をする目は、もう前を向いていた。

プログラム一番を任された幼い生徒は、小さな背中で大役を背負い、見事にやり遂げた。キーボードで奏でた「きらきら星」は、会場の空気をそっと照らすように幻想的だった。
かわいいドレスの三歳児も、小学一年生の男の子も、それぞれの精一杯を舞台に置いていった。

ロングドレスの少女たち、着物姿のご婦人。
衣装が揺れるたび、音楽が色を変え、会場はひとつの物語のように流れていった。

写真を眺めながら思う。
この一枚には、ただの記念以上のものが写っている。
緊張や挑戦、喜びや成長、そして音楽を通してつながる人と人の温度。

「今年もありがとう」
心の中でそっとつぶやく。
出演してくれた人も、支えてくれた人も、そしてこの写真の中のすべての笑顔も。

この一枚が、また来年へと続く物語の始まりになる。

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